硝子細工って飴みたいで美味しそうです!


by tahiri

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
未分類

以前の記事

2010年 12月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月

お気に入りブログ

リンク

最新のトラックバック

ライフログ

検索

人気ジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧

一枚絵で書いてみM@ster6

こちらの企画に参加。
詳しいことは上から。

大遅刻しました。
まじすいません。



上が絵になります。

以下SS




 ごくりと生唾を飲み込み、エンターキーを押した。
 モニターには、ニキビで埋まった自分の顔が映っていた。幼いころから嫌いだった自分の顔だが、この時だけは何より嬉しかった。
 喉の奥から、まるで豚のような笑い声が漏れてくる。妙に甲高いその音が嫌いで、いつも無表情を装っていたが、止められなかった。モニターの脇に置いていた気の抜けたコーラを一気にあおる。こぼれてTシャツがべたついたが、気にしなかった。
 今だけは、埃まみれの、ゴミが散乱したこの部屋が天国のように思えた。饐えた臭いを鼻一杯吸うと、少し咽た。
 身体が小刻みに揺れていく。ふひひ、と耳障りな声が耳朶に響く。僕の声だ。
 二十三年。
 馬鹿にされ続け。やる気も出ず。部屋の中だけで暮らした。
 そんな僕が、何かをやることができた。
 脂ぎった手で汗を拭うと、自分でも何かよくわからない汁が目に入って痛かった。
 七転八倒。
 そんな僕を、レンズの瞳をした子犬がずっと眺めていた。
 

 セイシュンアルカトラズ


 毎年のようにテレビで繰り返される記録的猛暑日。
 そんな日に僕は箱の中にいた。
 いや、僕はクーラーの効いた部屋でピザをつまみながらモニターを見ているだけだ。
 だがその液晶が写す風景は、箱の中にいる。振動検知機は、断続的に振動を捕らえている。まるで人が階段を上がっているときのように。
 楽しみだ。
 この箱が開けられると、そこには彼女がいる。天使のような。アイドルが。
 モニターから目を離し、壁にかけてあったポスターを見た。
 三浦あずさ。
 765プロ所属の20歳。
 グラマラスなボディーに、少し不思議系の性格。
 国民的アイドルには程遠いが、ごくごく一部で熱狂的に支持されている。例えば僕のようなやつに。
「わん」口の中でつぶやいた。顔がにやける。
 もうすぐ、彼女に会えるのだ。
 犬として。

 僕は、いわゆる引きこもりだ。
 でも、そんじょそこらの引きこもりと一緒にしてもらっては困る。
 電子工学を学び、ロボット工学を研究し。
 そして、あのおっぱいを見て。
 僕は、部屋に引きこもった。
 だが。それには理由がある。
 今日、この日のために。

 モニターに光が満ちる。
 僕の暗い部屋とは対照的に。
「あれ、どうしたの? あずさおねえちゃん」
 ノイズ混じりに声が聞こえる。幼い声。甲高い。餓鬼の声。おおらかな女性を愛する僕の好みからは、あまりにかけ離れた声。サイドに髪をまとめた、小学生くらいの女の子がモニターにうつった。人の胸の高さくらいまでカメラが引き上げられ、歪曲したレンズをくりくりとした瞳が覗き込んでいる。
 双海亜美だ。
 やばい。本当のアイドルが目の前にいる。
 なんかどきどきしてきた。
「あー、ワンコロだー!」
 笑顔を振りまきながら、双海亜美の顔がもう一つ迫ってくる。
 あ、あれ。双海亜美が二人いる。双海が二人。あれ?
 僕は混乱のあまり、コーラをモニターにぶちまけてしまう。
 やばいやばい。落ち着け。脂ぎった手でモニターをぬぐうと、垢がついて黒ずんでいく。
 霞んだ走査線の向こうでは、レンズの上のほうに視線を向けた二人の双海亜美が、笑いながら犬型ロボットを揺らしていた。「ねーねー、あずさおねえちゃん、真美にもだかせてよー!」レンズに唾が飛び、さらに視界が悪くなった。
 だが、そんなことを気にしていられる場合じゃない。
 もしかして。
 僕の視線は。
 犬を操り、身体を反転させる。
 そこには。
 僕のアイドルが、おっとりと笑っていた。
「うふふ、後でね」
 集音マイクから、心地いい声が僕のイヤホンに届く。
 ごくり、と生唾を飲み込む音が、聞こえた。
 僕の音だ。
 だが、今はそんな音どうでもいい。無視しろ。彼女に全神経を集中するんだ。
 ボリュームの摘みを最大限まで上げる。
「でも、誰が送ってきたのかしら――」
「ああああああああああー!」
 キン、と耳が痛くなった。
 彼女が僕を抱いたまま振り返る。
「な、なんで犬がここにいるんですか!」
 そこには、なんだか危険な目をした少女がいた。
 彼女のことはしっている。僕は普通のアイドルオタクではないのだ。765プロのことは調べられる限り調べた。
 萩原雪歩。
 アイドル候補生。
 いまだ世間にはほとんど露出してないけれど、一度だけ三浦あずさのバックダンサーとして出たことがある。そこから調べ上げ、スクールに通う候補生だと知った。
「あらあら、雪歩ちゃん。雪歩ちゃんも抱いてみる?」
「ひ!? む、無理無理無理、絶対無理です!」
「いいじゃん、雪歩おねえちゃん、抱くだけだって」
「そーそー、がんばれー!」
「で、でもでも!」
「大丈夫、怖くないわよ。ほら――」
 そうして、僕を彼女に渡そうとし――。
「やっぱり無理です!」
 萩原雪歩は、見事に僕の三年の月日の結晶である犬型ロボットを、床にたたきつけた。



 結局、何がいけなかったのだろう。
 薄暗い空、カーテンごしに、こちらに迫ってくる赤い回転灯を眺めながら、僕はため息をついた。
 どんどんと部屋を叩く誰かが、耳に煩かった。
 世間のせい? 親のせい?
 普通のやつらならそうなんだろうけど。
 でも、僕は普通の引きこもりじゃなかった。
 彼女を愛した、引きこもりだ。
 思えば、ここは僕の牢獄なのかもしれない。
 暗い部屋を見渡す。
 僕が宝物と思い込んだガラクタの山の上には、埃が積もっていた。ここ数年干した記憶のない布団には黒ずんだ皮脂がべっとりとつき、隅にまとめて置いてあるペットボトルの山からは異臭とともにショウジョウバエが生まれていた。
 ここから出られるのなら。
 愛の報いを受けるのなら。
 きっと、ましになれるかもしれない。
 こんな僕でも。
 青春の監獄から抜け出して。
 本当の監獄へ。
 ……行きたくないなあ。
 数年ぶりに姿見を覗き込んだ僕の笑顔は。
 相変わらず不細工すぎて。
 涙が止まらなかった。
[PR]
by tahiri | 2010-07-13 02:01