硝子細工って飴みたいで美味しそうです!


by tahiri

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一枚絵で書いてM@ster

こちらの企画に参加。
詳しくは上のリンクからどうぞ。

一枚絵はこちらになります。

というわけで、以下SS.

The Black Widow



 今日も彼女は黒い服だった。


 ケータイを見つめる。そこには、やっぱり何も写っていなかった。
 無言のままの通話口。液晶画面は暗く、わたしの顔を映している。

 暗い画面にうつった暗い顔。
 くらいわたしの目玉が動く。
 ソファの後ろに、彼女の顔。
 今日も彼女は黒い服だった。

「ねえ、千早。何を見ているの?」
「きっと、あなたと同じものじゃないかしら」
「抽象的だね。わからないよ」
「わたしにも、わからないわ」
「そうかな」
「そうだよ」

 そうして、わたしたちは。
 今日も何も映ってない携帯を眺め続ける。
 黒い服をきたままで。


 いつのことだったろうか。
 若葉の匂いが酷く強く感じられる日のことだった気がする。
 安普請の事務所の壁。冬は寒くて、夏は暑い。スタジオを借りていない時は、この中でレッスンをするのに、前の道路をトラックが通ったりすると、軽く揺れる。
 わたしたちと、社長しかいない、アイドル事務所。
 たった三人の、少数精鋭。
 この三人で、芸能界をトップまで駆け上がる。そういう話だった。
 夢のような話。現実味がまったくない。
 ただ、そんな子供みたいなことを話す社長の目は、どこか綺麗で。
 だから。
 アイドル養成校のレベルの低さに辟易としていたわたしと真は、その手を掴んだ。
 わたしは歌に。真は踊りに。
 周りにレベルを合わせろといわれて。納得できなくて。
 アイドル、という道を選んだこと、そのものが間違いだったような気がして。
 上を目指すって、なんなんだろう。トップアイドルになって、わたしは、何がしたかったのか。
 そのときに、二人でした会話はよく覚えてる。
 何の意味もない、ただの雑談。
 街角で。レッスンの合間に。携帯の電波にのせて。
 わたしたちは、よく話した。

「ねえ、真。わたしたちが、デビューできたとして。それで、何か変わるのかしら」
「変わるさ。変わらなきゃ、おかしいよ。こんなに辛いのに」
「努力したものが、いつでも報われるわけではないわ」
「成功したものは、いつだって努力しているよ」
「……何の台詞よ」
「この間、喫茶店で読んだ漫画。でも、まあ、大体は本心」
「曖昧ね」
「曖昧さ」

 壊したかった。
 意味のない会話。
 ぬるま湯のような現状。
 息を吸うと、周囲の空気が腐っているように感じた。臭気が、わたしの内臓を侵し、そのまま、わたしの純粋なもののなにもかもを持っていってしまうかのように。

 だから、手をとった。
 現状打破。夢に賭けた。
 彼の、まっすぐな瞳に、賭けたかった。

 そして、負けた。


 今日も彼女は、黒い服をきていた。

 一週間前。彼が仕事をとってきて。
 それは、まるでポルノのようなPVで。
 仕事も何もなく。
 知名度なんて無の如き。
 彼は、怒ったように、こんな仕事しかとれない、という。
 わたしたちのせいだ、と。
 それに、何も言い返すことはなかった。
 ただ、何もしなかっただけで。

 今日もわたしは、黒い服をきていた。

 携帯を覗き込む。
 暗い画面。どこにもつながっていない。
 暗い画面に映る、彼女の顔。
 暗い画面に映る、わたしの顔。
 どこにもつながっていない。

「ねえ、千早。アイドルってさ。何かに殉じるものなのかな。ファンに? 芸能界に?」
「きっとね。女を捨てなきゃだめよ。わたしたちは、何かに嫁ぐのよ」
「じゃ、もし、それから捨てられたときは?」
「さてね。喪服でも着ましょうか」

 今日も、わたしたちは、黒い服を着ていた。

 明日は、携帯は何か答えてくれるのだろうか。


 黒井崇男は、走査線の向こうに映る彼女たちを眺めていた。
 失敗などしたことのない人生だった。何の不安もなく大学を出、何の不安もなく就職をし、何の不安もなく芸能事務所を設立した。
 彼は、そこで初めて躓いた。
「765プロ……」
 黒井の口から、怨嗟のような呻きが漏れる。
 彼のもとにいた、アイドルは。
 彼のもとでは輝けなかったアイドルは、今、走査線の向こうで、輝いていた。
 眩いくらいに。
 天地がひっくりかえったような感覚。
 信じられなかった。
 自分は完璧だったはずだ。
 なのに、何故?
「765プロ……」
 自分の口から出たとは思えないような、呻き声。
 走査線の向こうのアイドルは、金髪のアイドルを一人加えて。
 彼女たちには、まるで足りなかった、ビジュアルをも加えて。
 完璧に、写った。
 妖精の、ようだった。

 壊して、やりたかった。

 彼はどこか焦点の合わない瞳で立ち上がると、そこを出て行った。
 その古ぼけたアイドル事務所に彼が戻ることは、二度と無かった。

 その姿は、逆光で何もかもが黒く。
 表情もわからなかった。

the black widow is th end...
and next is...?


 ちなみに、隠されたサブタイトルは、「厨二の戯言」ってのは秘密だよ!
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by tahiri | 2010-01-29 22:07